ハイヒールプロジェクトについて


24年間、補装具と義足を使用していた私は、ハイヒールに足を入れたことが一度も無く、
母が履いていたハイヒールは理想の女性になるための必要不可欠なものとして心の中に強く残っていました。
そんなこと言ったら、母は笑うだろうけど…。母は本当に美しくて、可愛らしくて、格好良くて、私にとって憧れの女性なのです。

2011年、あるキッカケから、ハイヒールを履いたライブ出演を目標に、その活動を『ハイヒールプロジェクト』と名付けました。
その年の5月に『high-style』という、義足でハイヒールを履くための部品をアメリカから取り寄せ、義足を作り、
7月に主催したイベント『切断女の夜』ではハイヒールを履いてステージに立ちました。

プロジェクトを進め目標を達成するまでの間、現在の日本における義肢装具をとりまく環境
――自立するという選択肢すら持てないという現状――を知りました。
ハイヒールを履くかどうかだけではなく、サンダル、ローファーを履くこと、スカートを穿くこと、
自立してトイレへ、お風呂へ行くこと・・・・・・。
それらを選択出来るということを知らない、情報が無いという地域格差、情報格差。
「歩けるだけで十分」といった意識下で、「お洒落したい!」と声に出す事の後ろめたさ。
薬は苦いもの、かもしれません。「治療」出来たらそれで十分なのかもしれません。

『義足でハイヒールを履くこととは?』というスタートは、ハイヒールだけではない『選択することの自由』に行きつきました。
私は、それを前にして通り過ぎることが出来ませんでした。
『ハイヒールプロジェクト』が、この現状に一石を投じることができたらと思い、
当初の目的であったハイヒールでのライブ出演後も、この活動を続けていこうと決心しました。


子供がお母さんのぶかぶかなハイヒールをひっかけて、歩く。
届かない、ずっと先にあったハイヒールを履いて。
手すりづたいの頼りない一歩から、夜の街にくり出すまで。
理想を抱く自由を、すべての人に。






When I was a graduate student, I was working as a jazz singer at a bar in order to pay my tuition.
One night, a drunk customer harassed me saying “a woman is no longer a woman when not wearing high-heels”.
I was so sad and rushed into the prosthetic limb works
and that’s how I started creating high-heels that are wearable with my artificial legs.
I started by seeking each special part of the leg.
As I proceeded to work on this project diligently, some interesting and unexpected issues became more and more clear,
mainly the current state of social welfare in Japan.
In the field of social welfare, the importance of "clothing" is not well recognized, even now.
If there were clothes that a handicapped person could wear and take off themselves,
they may be able to go to the toilet or change their clothes without the help of other people, a factor previously required.
Moreover, if the patient or a handicapped person could choose their own clothing by their own tastes,
clothing could become a big first step toward their social rehabilitation and increased independence.
I could not ignore such an issue as this that I came to know and it prompted my project, “wearing high-heels with artificial legs.”
After the fact that I knew certain issues as this remain unrecognized by people in the real society,
either because they are too small or too minor, I launched my “High Heels Project” so that my thoughts could reach you.
Currently, I am running a lecture circuit, singing on the stage with those legs, walking on the runway wearing dresses,
and producing photographic works in the name of “High Heels Project.” There is no welfare or art, entertainment, whatsoever fence there.
All my activities of being myself 193cm tall while wearing high heels have become the "High Heels Project".

----------大学院生の頃、私はジャズバーで歌手の仕事をしていました。ある日一人の酔っぱらいが、「ハイヒールを履いてない女なんて女じゃない」とヤジをとばしてきたのです。
私はすごく悔しくなって、義肢製作所へ駆け込みました。そして、ハイヒールを履けるタイプの義足部品の調達から義足の製作がスタートしたのです。
その製作が始まると、見えてきたのは日本の社会福祉の現状でした。
社会福祉の分野で、「装い」の重要性は今でも十分に認知されていません。1人で脱ぎ着できる洋服があれば、これまで人の助けを借りていたトイレや着替えが出来るかもしれません。
着たい服を着て外へ出ることは患者さんの社会復帰、そして自立への大きな一歩に繋がります。
私は、「義足でハイヒールを履く事」を通して知ってしまった問題を、知らんぷりすることが出来ませんでした。
そして知ってしまった事実と、私の想いから「ハイヒールプロジェクト」がスタートしました。
現在、ハイヒールプロジェクトと称して、講演活動をしたり、ステージで歌を歌ったり、写真作品を発表したりしています。
そこにはアートや福祉、エンターテインメント、なんの垣根もありません。ハイヒールを履いて193cmになる私の活動全てが、「ハイヒールプロジェクト」なのです。
(art4d.asiaインタビューより)

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